好天に恵まれた中、奇岩群を進む軍艦のような山容の荒船山に登った。
テーブルマウンテンの豊かな森、クリンソウを始めとする山野草を楽しみ、
修験道の巨石から山岳信仰の世界に触れた。
2024年5月30日(木)
荒船山の企画を引き受けた時に、軍艦のような山容に魅力を感じながらも、都心から遠く登山口までのアプローチがネックになりそうだった。そこで、山域を理解しルートを選定するため、4月6日(土)に下下見を行った。下仁田駅から町内バスに乗り三ノ瀬で降り、相沢登山口から、標高差1,000メートルを登り頂上である経塚山を往復した、ガスに覆われた頂稜部の森は肌寒く、幹と枝だけで幽玄な雰囲気であった。帰りに荒船の湯に立ち寄れるコースであったが、日帰りでは行程が長く標高差が大きいのでこのルートは諦めることにした。
そこで、タクシーで下仁田駅から一気に標高1,064メートルにある内山峠登山口まで移動し、上りと下りを同じルートを往復することにした。5月24日(金)に幹事(岸本)とスタッフ(小野)と特別サポート(稲葉)の3人で下見をした。この日の荒船山は、下下見の時とは異なる鮮やかな姿を見せていた。青空に映えた軍艦のような山容の全貌、テーブルマウンテンの豊かな森、クリンソウを始めとする多様な山野草、巨石や祠、この日発見した豊かな見どころから本番ではかなり期待が持てた。
山頂の集合写真(スタッフ班)
山頂の集合写真(幹事班)
艫岩下で全員集合(幹事以外)
本番当日が近づいてくると、前後の日程で天気予報の変化はあったが、本番当日は、晴れマークが消えないまま推移し予定通り催行することになった。当日の午前中は晴れて、午後から雲が多くなり夜は雨が降るという予報だった。前日まで受付を待ったところ直前で1名の方の申し込みがあり、12名の方が参加いただくことになった。
本番当日の朝、幹事は一足先に下仁田駅に到着すると受付の準備をした。9時23分に下仁田駅に上信電鉄が到着すると参加者の皆さんが降り、全員、受付を済ませた。4台のタクシーに分場し、9時30分に出発をした。タクシーは、山あいの国道に入ると、西上州特有の奇岩の山岳景観が迫ってきた。標高を稼ぎ内山峠登山口が近づいてくると、車窓からいよいよ荒船山が見えてきたのでその雄姿を写真撮影した。
艫岩で是認集合だが、幹事以外の誰か抜けている?
あふれんばかりのクワガタソウ
クリンソウ(鈴木さん)
10時10分に内山峠登山口に着くと各自でお手洗いと体操を済ませ、開会式をした。すぐに幹事班に続いて小野班が出発した。下界に比べると、標高1,000mを越えているので、風が涼しく、登山道の新緑は眩しかった。森は、ほとんど落葉紅葉樹でミズナラ、カエデ類が多く、ときどきトチノキの巨木や自然の力で倒された大きな倒木に足を止めた。ハルゼミの合唱が聞こえ、野鳥の囀りが森に木霊していた。登山道の脇には、クワガタソウがたくさん咲き、頂稜部に辿り着くまで、白に紫の筋が入った花が心を和ませてくれた。皆さんは、可憐な足元に咲く花々に足を止め山野草の特定を楽しんでいた。ミツバツチグリ、チゴユリ、ラショウモンカズラ、ササバギンランの花々が足元を彩っていた。
一時間ほど手入れの行き届いた登山道を登ると、踊り場のような空間に出て、巨大な岩が現れた。鋏岩修験道場跡だ。巨石には遺構らしきものが穿たれており、地面には石柱の台座が何本かあった。ここには、かつて修験者が修行をしていたお堂があったようだ。皆さんは、この巨石空間にて祈りの痕跡を体感しながら、自然観察を楽しまれていた。湧き水が潤す岩壁には、イワタバコの葉が連なり、巨石の側の立木の根本にコガネネコノメソウを発見して喜ばれていた。
ワチガイソウもお出迎え
荒船号がお出迎え、左の先端に立つと緊張する
お約束の艫岩からの浅間山
鋏岩修験道跡を出ると、艫岩が近づいてきた。鋭い鋭峰が連なる妙義山をはじめ西上州の山々が梢越しに見えていた。山頂から流れる一杯水と呼ばれる渓流を超えテーブルマウンテンのとりつきに入ると、道は荒々しい岩場やザレ場になった。補助ロープや梯子がかけられて十分に整備されているとはいえ、足場や安全なルートを確認しながら登った。岩場を乗り切ると道もなだらかになり、テーブルマウンテンの森に取りついた。
12時20分過ぎに、艫岩に辿り着いた。ほぼ計画した行程通りだ。ここで昼食休憩にすることにした。やや大気が霞んできたが、眺めは圧巻だった。眼前には西上州の山々や神津牧場が見え、その後方には、大きな浅間山の山体を臨むことができた。北西の方角に目を凝らすと、白い冠雪が残る北アルプスのシルエットが浮かび上がっていた。
約20分後に艫岩を発つと、いよいよ頂上の経塚山までテーブンマウンテンの上を歩いた。これまでの登りのご褒美のような、山上とは思えないような快適な森の回廊歩きだった。下見では、蕾だったクリンソウも何本かは鮮やかな紅色の花を咲かせていた。満開だったズミの花弁が大量に大地へ落ち白い絨毯のようだった。一番の驚きは、荒船山の荒々しい外見とは対照的な豊かで優しさを感じる森だろう。
こんな登りも登場
艫岩直前の登り(鈴木さん)
クルマバツクバネソウ(鈴木さん)
ミズナラや豊富なカエデ類の明るい落葉広葉樹の森に覆われ、地面には大量の落葉が積もり、時間をかけて土壌に変容し大地の滋養になっている。頂稜部であるにもかかわらず、湧水が湧いて流れ、倒木が朽ちた空間から光が差し、森全体に爽やかな風が流れていく。水、風、土のめぐりがよく、このテーブルマウンテンに存在する命あるものが自然のゆったりとした循環の中にあることを感じた。(もちろん自然の厳しさと抱き合わせなのだろう。)皆さんも自然観察や森林浴を楽しみながら、生命の不思議さを感じていたようだ。
幹事班は、星尾峠からの分岐から10分ほどの急登を登ると、13時20分に経塚山の山頂に着いた。荒船山を船の船体に見立てると舳先の部分だ。後続の小野班を待つ間、立木の根本に咲くマイヅルソウの花を楽しみ、頂上に祀られている祠に参拝をした。小野班が到着すると交代で写真撮影を済ませ、幹事班は、下山に入った。
辿ってきた森の回廊を40分ほどで艫岩に戻ると休憩で呼吸を整え、頂稜部から離れいよいよ本格的な下山に入った。幹事班に続いて小野班が続いた。岩場に入ると、足の置く位置を確認し、三点支持を意識しながら慎重に降りた。皆さんは、慣れていて注意が必要な箇所では、後続のメンバーに、かけ声をしながら歩みを進めた。岩場を超えると一杯水に出て、歩きやすい登山道に戻った。
やや雲が多くなり湿った風を感じ始めると鋏岩修験道場跡に着いた。巨石のスケール感にお別れをすると、先頭にいた幹事は、少し下山のペースを上げた。迎えにくるタクシーの配車時間がやや気になっていたからだ。後続の参加者の皆さんも見事についてきてくれて、幹事が行き届かないところをカバーし、後続のメンバーへ安全喚起の掛け声を続けてくれた。さすが常連の皆さんだ。
あれは何?
これだけ見るとちょっと大変そう
これから登る艫(とも)岩の絶壁
(鈴木さん)
森の中の登山道を抜けると、15時45分に内山峠登山口に着いた。時間通りに下山することができた。続けて後続の小野班もやってきた。タクシーが4台すぐに出発できるよう待機をしていた。簡単に閉会の挨拶を終えると、乗車は運転手さん達の協力もあってスムーズだった。
下仁田駅へ戻る帰りの車窓から、もう一度、荒船山が見えた。太古から続いてきた豊かな森の循環と、巨石や祠から感じた祈りの跡から自然を敬う精神性のようなものを感じた。この荒船山に導いてくれたし所縁に感謝をした。上空は、雲に覆われやや暗くなっていた。今夜から雨が降りそうだ。午前中の明るい景色が様変わりしていたが、荒船山は、変わらず静かに座していた。16時20分頃、タクシーは、下仁田駅に到着して解散となった。駅舎の待合室でタクシーの運転手さんからいただいた折鶴を皆さんは楽しんでいると、16時56分発の高崎駅行きの電車が入線してきたので乗車し帰途についた。
参加された皆様、ご参加いただきまして誠に有難うございました。ご協力をいただいた皆様には、心より感謝申し上げます。また、一緒に山行ができる日を山笑会一同楽しみにしています。
・参加者:⒓名(申し込み14名、キャンセル2名)
・スタッフ:岸本(幹事)、小野(班長)、稲葉(下見時、サポート)
・報告:岸本雷太(30年)、写真提供(岸本、小野、鈴木さん)
鈴木さん、写真の提供ありがとうございました。
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